SDGs×iPadで現代社会の課題に中学生たちが挑む~石神井特別支援学校の挑戦

 東京都練馬区にある、東京都立石神井特別支援学校。ここには小学部と中学部をあわせて191名の児童・生徒が通う。  同校は平成27年度「東京都ICT活用推進校」をはじめとした情報教育の推進校となっており、iPadなどを使った様々なICT教育に取り組んでいる。今回、SDGs(エスディージーズ)をテーマに、iPadでAppleの「Everyone Can Create」を活用した授業を取材した。 ■中学2年生の5人がSDGsの課題に挑戦  この日取材したのは、中学2年生の算数/国語の授業だ。受けていたのは男子生徒5人。  授業を行うのは、同校の指導教諭を務める海老沢穣教諭だ。海老沢教諭はiPadを使ったプログラミングや動画作成、プレゼンテーションなどの取り組みを意欲的に行っており、Appleの教育イノベーター「Apple Distinguished Educator」に認定されている。また、東京都内の教員を中心に集うICTや教育をテーマにしたコミュニティ「SOZO.Ed」の代表として、学校を超えたワークショップなども手掛けている。 ▲生徒たちにSDGsを説明する、東京都立石神井特別支援学校の海老沢穣教諭。  今回の授業では、SDGsのゴールに対して「自分なら、実際に何ができるのか」を考え、それをiPadとApple Pencilを使って絵で表現する。  最初に海老沢教諭から、SDGsとは「世界を変えるための目標」といった説明が行われた。政府の解説では日本語で「持続可能な開発目標」とも書き表されるSDGsは、国連サミットによる2030年までの国際目標で、「地球上の誰一人として取り残さないこと」を目標に、持続可能な世界を実現するための17のゴールが設定されている。日本でも政府をあげて積極的に取り組んでおり、近年では教育の現場でも扱われている。 ▲SDGsが掲げる17のゴール(目標)。国や自治体、企業、学校でも取り組みが行われている。  生徒たちは、先生の説明を受け、自分ならどのゴールでできるかを考え、具体的な案を一人一人答えていった。SDGsは貧困や飢餓、不平等、エネルギーなど、現代の各国が抱える様々な社会問題と密接に関わっており、これを身近な問題として捉え、自分が何をできるかと考えることは大人でもなかなか難しい。それでも生徒たちは、言葉を紡ぎながら、これならできると思われる自分なりのアイデアを出していった。  たとえば、「飢餓をゼロに」というゴールについては、「みんなで食べ物を分け合う」「自分たちで食料をつくる」などの意見が出た。また、「先生、友達、家族と喧嘩をしない、仲良くする」というアイデアが生徒から出ると、海老沢教諭が「それは、『平和と公正』や『パートナーシップ』になるかな」と生徒たちの言葉をゴールにつなげて、黒板にアイデアをどんどんと書き出していく。  ひと通り意見が出たところで、次に、各人がどのゴールを担当するかを決め、いよいよ生徒たちが楽しみにしているiPadとApple Pencilによるスケッチの時間となった。 ▲今回使用したのは、iPadとApple Pencil。生徒一人に1セットが用意されていた。 ■iPadとApple Pencilで自分のアイデアを形にする  iPadが渡されると、生徒たちは慣れた様子で『Tayasui Sketches School』というスケッチアプリを立ち上げ、それぞれ絵を描き始めた。といっても、最初からどんどん描いていったわけではない。自分の出した考えを、絵としてどう表現するかを悩みつつ、少しずつイメージを形にしていく。 ▲画面いっぱいに絵を描く生徒、最初に目標を書く生徒など、表現の方法は実に様々だ。  スケッチの時間は20分ほどだったが、その間全員が真剣にiPadに向き合い、Apple Pencilを走らせていた。こうした取材をしていていつも思うのだが、年齢などにかかわらず、iPadなどのICT機器を使った授業では、通常の対面授業よりも子供たちの集中力が断然続きやすい。そして、子供たちの自由な発想力が画面の中で広がっていくことに毎回驚かされる。  今回の授業も例外ではなく、生徒たちはそれぞれ素晴らしい作品を仕上げていた。中にはかなり細かく工夫を凝らした作品もあり、生徒たちの新たな面を垣間見ることができた。    描き終わると、それぞれが先生のiPadへ絵を共有する。海老沢教諭が絵をホワイトボードに大きく表示して紹介し、生徒はどのような意図で書いたかを発表した。これらの絵は最後まで仕上げた上で、全員の作品をまとめて1本のスライドショーに仕上げる予定だという。 ▲自分の描いた絵について説明する生徒。 ■当事者の一人として問題に向き合い社会に参加する  授業終了後、海老沢教諭から同校でのICT教育の取り組み、今回の授業のめあて、さらに今後目指している目標などをお聞きした。  東京都立石神井特別支援学校では、現在31台のiPadが共用として用意されている。今回取材した中学2年生の男子5名は、これまでにも卒業生に向けた動画作成などを行っており、校内でもっともICTを活用している生徒たちだという。 ▲同校では、これまでにもプログラミング教育の公開授業なども行ってきた。  授業でSDGsを取り上げた理由として、「SDGsで提示されている問題は他人事ではない。自分も当事者の一人として、みんなが幸せになるためにはどうしたらいいのかを考えて社会に関わること。そして、色々な人と連携し、社会へアイデアを出していくことは、とても大切です。自分たちにとって住みやすい世界を作ることは、未来の自分たちに関わることであり、SDGsのゴールのひとつである『ダイバーシティの実現』にもつながると思っています」と、海老沢教諭は話す。 ▲特別支援教育の目標にある「自立と社会参加」や「当事者意識」「創造性・表現」などにもSDGsの授業はつながっている。  今後は、授業でSDGsについて学んだ5人が、今度は学年全体にアウトプットし、さらに他の学年へと広げていくといった構想もあるという。 ■ICT教育の先にある新しい教育とは?  ICTについては、平成26年度から活用しており、これまでに視覚支援のほか、コマ撮りアニメなどを作成する映像メディア表現、レゴを使った物語づくり、プレゼンテーション、プログラミングといったことにも挑戦してきた。  iPadを使う理由として「デジカメなどの場合、写真を撮ってからパソコンなとにデータを移すということが難しい。iPadであればカメラとタブレットが一体になっているので、撮影してすぐにデータを使うことができる」と海老沢教諭はその利点を挙げている。  たとえば学校紹介動画をつくった際は生徒の中で役割分担を決め、チームによる協働作業でアイデア出しや撮影、表現の工夫などを行ってアウトプットをし、さらにできあがった作品に対してふりかえりを行った。 ▲動画作成アプリ『Clips』で、学校の様々な施設を紹介する動画を作成した。  俳句を作った授業では、最初に『五・七・五』のルールを理解させるために工夫は必要だったが、その後はひな形を用意しただけで生徒が自由に作ったという。その結果、写真のエフェクトを使って見せ方を工夫したり、入力の予測変換で漢字を使ったりと、教えていない以上の使い方をして、教師の予想を超えた作品が仕上がったという。 ▲iPadの文書作成アプリ『Pages』の縦書き機能を使って作成した俳句。  今回の授業でも活用した「Everyone Can Create」については「iPadを使って何かをできるようにするのではなく、むしろiPadは生徒たち一人ひとりのアイデアや個性を生かす、創造性を引き出すツールとして使えるのではと考えています」と話す。  iPadを使った授業を通じて、生徒たちが映像制作が大好きでとても楽しんで制作していること、大人が思っている以上に活用できることを知り、まさに「誰でも、簡単にアウトプットができるツール」であるということを実感したという。 ▲Appleの学習プログラム「Everyone Can Create」。    さらに、海老沢教諭はICT教育のモデルとして注目されている「SAMR(サマー)」についても言及した。SAMRは、ICT教育における4段階のステップとして、「Substitution(代替)」「Augmentation(増強)」「Modification(変容)」「Redefinition(再定義)」を挙げている。 「現在はまだ代替や増強の段階ですが、将来的には、その上の "ICTでなければできない" 教育を目指し、学校や国を超えるようなことも行っていきたいですね」と、今後の目標を語ってくれた。 ▲ICT教育の段階的な目標として注目されている「SAMRモデル」。  今や、iPadなどのデジタルツールは特別なものではなく、子どもたちにとっては身近な道具の一つだ。あとは大人たちがそれに気づき、それをどのように子供たちに与えられるかをということが重要になってくる。  東京都立石神井特別支援学校では、その好例といえるだろう。これからの教育をつくる、そして未来をつくるツールとして、iPadをはじめとしたICTをどう使いこなし未来へとつなげていくのか。海老沢教諭と生徒たちの挑戦に、これからも注目していきたい。